なぜ “ 生の声 ” が経営を動かすのか ─ 顧客インタビューの必要性
- コルグロ 福岡

- 4 日前
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更新日:3 日前

こんにちは、コルグロの福岡です。
コルグロでは N1CXインタビュー というサービスを展開しています。
これは、顧客に対するデプスインタビュー(ひとりひとりの顧客から話を聞き深堀をしていくインタビュー)から導き出したインサイトを戦略に活かし続け、企業の利益につなげる取り組みです。
そこで、まず顧客インタビューが皆様にとって 「いま」必要な取り組みであるかの判断材料になるよう、少し詳しく紐解いていきたいと思います。
【用語解説】
本文中では、「インタビュー」に関する用語が複数登場するため、あらかじめ簡単に整理しておきます。
顧客インタビュー:顧客に対して実施するインタビューの総称。デプスインタビューやグループインタビューなどが含まれる
デプスインタビュー:インタビュアーと対象者が一対一で行う、ひとりひとりを深掘りするスタイルのインタビュー手法。「深層インタビュー」と表現されることもある。
N1CXインタビュー:コルグロが提供する、CX(顧客体験)の向上・改善を目的としたデプスインタビューサービス
|顧客理解は経営とマーケティングの歴史に根ざした普遍的な原則
いまでは当たり前とも言える「お客様の声を聞く」という活動ですが、もちろん「ただ聞く」ことが目的ではありません。
広告のビジュアル、商品開発、ブランディングなど、あらゆる企業活動に反映し、成長へとつなげるための大切な営みです。
近年では、元P&Gの西口一希さんの著書『顧客起点マーケティング』『顧客起点の経営』『ビジネスの結果が変わるN1分析』がベストセラーとなったこともあり、改めて顧客の声の大切さが注目されています。一方でこれは一過性のトレンドではなく、長い歴史の中で繰り返し強調されてきた経営の原則でもあります。
例えば遡ること70年。
1954年に経営学の巨匠 ピーター・F・ドラッカー が「企業の目的は顧客の創造である」と提唱しました。1960年にはマーケティング学の巨匠 セオドア・レビット が「企業は製品を売るのではなく顧客の欲求を満たすのだ」と警鐘を鳴らしました。そして1967年、『マーケティング・マネジメント』で マーケティングの父、フィリップ・コトラーが顧客志向を理論として体系化し、世界中の企業に広めました。
このように、顧客理解は流行ではなく、経営とマーケティングの歴史に根ざした普遍的な原則と言えます。
|顧客理解とはいったい、何を指しているのか。インサイトとは何か。
「顧客理解」という言葉は広い意味で使われる分、非常に曖昧な言葉に感じると思います。
いったい、その正体はなんなのでしょうか。
「顧客の気持ちになって考える」という事なのでしょうか?
そこで、世間で誤解されている「顧客理解」に少し触れてみたいと思います。
以下のリストは顧客理解の取り組みでよく挙げられるものです。
購買履歴やアクセスログを分析すること
アンケートを取ること
属性(年齢・性別・年収)を知ること
SNSやレビューを読むこと
何が欲しいかを直接聞くこと
ペルソナをつくること
これらは顧客理解を施策の取り入れるために必要な作業や重要な施策とも言えますが、これらだけを実施すれば利益に繋げるための顧客理解には不十分と言えます。
顧客理解の取り組みを行うためにはタスクレベルに落とし込めるほど解像度を高く顧客理解を定義しておかなければ実行ができませんが、解像度を高く言葉を捉える前に、もう少し顧客理解について考えを進めてみます。
顧客理解と顧客インサイト
広義の「顧客理解」とは、顧客の本音や、顧客自身も言語化できていない“なんとなく”を解き明かすことを指します。
つまり、「顧客の隠れた欲求」や「深層ニーズ」と呼ばれる インサイト(洞察) を理解するということです。
脳科学の分野では、人が自分の欲求や行動の理由を完全に理解しているのはごく一部に過ぎず、無意識の影響が圧倒的に大きいという説があります。
実際、人間は一日に数千回もの選択を無意識に行っているといわれています。
そして、自分がなぜその選択をしたのかを、あとから論理的に説明できないことも少なくありません。
つまり、「人は自分の中にある ” 隠れた欲求 ” すら明確に言葉にできない。
自分自身でも “ なんとなく ” という感覚のままに行動している」。
これが、顧客インサイトを読み解く難しさであり、同時にリサーチ・インタビューの醍醐味でもあります。
インサイトとは、「何かの秘密を知るようなこと」だ
一般的に、顧客インサイトとは、「顧客自身も明確に自覚していない、行動や選択の背後にある本当の理由・欲求・感情」のことを指します。 そのため、「隠れた欲求」や「深層ニーズ」といった表現で説明されることが多く、専門家の間でも定型的な言葉として広く受け入れられてきました。 しかし、ある書籍で出会った表現が非常に秀逸だったので、ここで少しご紹介したいと思います。
プロダクトリサーチの実践的なガイドブックである『プロダクトリサーチ・ルールズ 製品開発を成功させるリサーチと9つのルール』(アラス・ビルゲン/C・トッド・ロンバード/マイケル・コナーズ著、ビー・エヌ・エヌ新社刊)に記された次の一節です。

「インサイトとは、ある状況を別の視点から見たときの価値ある情報のこと。 ユーザーの行動や心理を観察するところから生まれる。つまり、何かの秘密を知るようなことだ。」
この一文を読んだとき、「こんな視点での表現があったじゃないか!」と心が高鳴ったのを鮮明に覚えています。まさに、私自身のインサイトが刺激された瞬間だったのだと思います。
顧客インタビューを通じて導き出されるインサイトは、まさに顧客自身も気づいていなかった「小さな秘密」を言語化・可視化したものではないでしょうか。
「小さな秘密」は、データや表面的な言葉からは見えない、その人だけが持つ感覚や体験の奥にある心理と言えそうです。
|顧客理解のためのインサイトを導き出す唯一の方法が「デプスインタビュー」である
顧客インサイトを導き出すためには、これまでにさまざまな手法が試されてきました。
その源流をたどると、社会学・人類学・心理学などの質的研究で用いられてきた「半構造化インタビュー 」に行き着きます。
「半構造化」とは、あらかじめテーマや質問の枠組みを設けながらも、相手の語りに応じて柔軟に深掘りしていくという手法のこと。
つまり、ある問いに対して単に答えを引き出すような一問一答のインタビューではなく、
対話を通じてその人の体験や意味づけ、感情の流れを共に紐解いていくアプローチです。
この方法は、もともと人々の文化的・社会的な文脈を理解するために生まれましたが、
1970〜80年代頃から広告・マーケティングの世界でも取り入れられ、
消費者の “ 本音 ” を探るための「デプスインタビュー」として体系化されていきました。
コルグロが提供しているN1CXインタビューも、顧客一人ひとりを深掘りするデプスインタビューを基盤として実査・分析を行うもので、
質的研究の知見をUXデザインの思考法と統合し、CX戦略を具体化するための実践的な手法です。
顧客理解のためのインサイトを導き出す唯一の方法が「デプスインタビュー」であると言えます。
顧客インサイトは定量データやSNS・口コミで導き出す事ができるか?
顧客インサイトは、デプスインタビューによって最も深く導き出すことができる要素の一つです。
ECサイトやWeb上の定量的な行動データを解析しても、顧客理解は不十分と言えます。
なぜなら、顧客が抱く個人的な感情・隠れた欲求 を探るには、定量的なデータ分析だけを行うことや、あらかじめ用意した質問をアンケートで多数に投げかけることだけでは「なぜその行動を取ったのか」「そのときどんな感情だったのか」といったナラティブ(文脈的)なストーリーまでは見えてこないからです。
一方、定性的な手段としてSNSや口コミからの “ リアルな声 ” を拾うことも大切ですが、そこに表れる言葉はあくまで断片であり、発言者それぞれの価値観や状況を理解した上で解釈しなければ、 表面的な印象や一面的な判断に留まってしまう危険があります。
補足すると、社会学や人類学・心理学などの学問において質的研究を行う上で、「理論的飽和数」という考え方があります。
これは新しい発見や視点が出なくなるまでインタビューを重ねる事で、テーマに関する理解が十分に深まった状態を指す概念です。
一般的には、15~30人程度のインタビューや定性データを分析することで研究としての信頼性を確保できるとされています。
これらのことから、SNSや口コミでの意見の傾向の数が「理論的飽和数」に達しない場合や、顧客の深層心理を探るために必要な「価値観」や「感情」が見えにくい表層的なデータだけで分析を行ってしまうと「解釈の偏り」や「限界」が生じてしまうのです。
では、商品開発やUXデザインの領域ではどうでしょうか。
ユーザー体験の改善や新しいプロダクト開発を行うUXデザインの領域でも、自社の技術や発想を起点にする “ プロダクトアウト ” ではなく、 ユーザーの体験や行動を起点に設計する “ マーケットイン ” の発想が重視されます。
マーケットインのプロセスでは、ユーザーの行動観察やインタビューを行い、分析を経てインサイトを導出し、そこから企画を行うためにコンセプトを設計し、商品企画を行います。
といったように、商品開発・UXデザインの領域でも、インタビューが起点になっているのです。
|顧客へのデプスインタビューから導き出したインサイトを、利益につなげる施策へ
ここまで、顧客理解の本質と、顧客インタビューがなぜ必要なのかをお伝えしてきました。
では、実際にインタビューを行った後、どのように施策へと落とし込んでいくのでしょうか。
インタビューをどう設計し、どのように分析し、それをどう環境整備して組織に根付かせるか。
各社が創意工夫を凝らして取り組んでいますが、残念ながら環境や状況によって最適な方法は異なるため、「これが正解」「これを真似してればOK」という唯一の答えは存在しません。
むしろ、変化する顧客や市場に合わせて、継続的に最適化を重ねていくことこそが、
顧客理解を利益へとつなげる本質的な取り組みと言えます。
コルグロでは、広義のCX(顧客体験)を「設計し、改善すること」をゴールに据え、
後述する4つのカテゴリから具体的な目的と問いを設定したうえで、インタビュー設計を行います。
そして、インタビュー実査を経て、以下のプロセスで分析・インサイト導出・施策化へとつなげていきます。
【 N1CXインタビュー分析のプロセス 】
インタビュー後は、すべての音声データを文字起こしし、発話内容を丁寧に分析します。MGTA、SCAT、KA法といった質的分析の手法を状況に応じて用いて、言葉の背後にある意味や文脈を読み解き、インサイトを導出・可視化していきます。
その過程では、ペルソナやカスタマージャーニー、価値マップといったモデリングも作成し、顧客の体験や心理を立体的に捉えていきます。
導き出したインサイトは、以下の4つのカテゴリに応じて具体的な戦略・施策として提案します。
N1CXインタビューの4つのカテゴリ
マーケティングコミュニケーション
ブランディング
商品開発
UX/CX
また、インタビューからインサイト導出、そして施策立案までの詳しい流れについては、また別の記事で詳しくご紹介する予定です。
|まとめ
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
もしかすると、すでにご存じの内容もあったかもしれませんが、少しでも気づきや再考のきっかけになっていれば幸いです。
顧客の “ 生の声 ” に耳を傾け、その奥にある「小さな秘密」を解き明かすことは、
単なるリサーチではなく企業の成長を支える普遍的な営みです。
そして、AIが急速に進化する今だからこそ、
生身の人間=顧客と直接会い、ひとりひとりに深く聞くことが真の差別化につながると感じています。
もちろん、データ分析やアンケートも重要な手段です。
しかし、顧客の深層にあるインサイトを導き出すには、やはり直接の対話を通じて心の奥をたどるデプスインタビューに勝る方法はありません。
もし、顧客へのデプスインタビューを通じて本質的な顧客理解を行い利益につなげる取り組みを実施・改善されたいとお考えでしたら、ぜひコルグロへお気軽にお声がけくださいませ!

